
グッドニュース新聞編集部
おじいちゃん(84歳)、チェコで迷子になる
約20年前のこと。まだ学生だった兄と私は、旅先の写真を撮るのが生きがいの祖父に、海外でも撮らせてあげたいと思い立ちました。高齢の祖父との旅は不安でしたが、おじいちゃん孝行がしたいとの一心から、意気揚々とヨーロッパ3か国ツアーに参加したのです。
ベレー帽姿の祖父は、たちまちツアーの人気者です。一方、私たちは、夢中になると周りの見えなくなる祖父が、いつ迷子にならないかと心配でなりません。
ツアー5日目、一行はチェコに入国。治安が悪く物騒だと聞かされていましたが、いざ行ってみると、誰もがクリスマスに沸き立ち、街並みも工芸品もそれはそれはきれいで、いつのまにかすっかり夢中になってしまい、ふと気づけば……おじいちゃんがいない! 恐れていたことが起きたのでした。
当時、携帯電話なんて便利なものはなく、私たちはツアーの方々に協力してもらい、必死で祖父を探しました。もし一生会えなかったらどうしよう! 私たちは、ただただ必死で祖父の名を叫び、街をかけまわりました。あの時の恐ろしさはいまだ忘れられません。
ツアーの方に無事保護されたとき、ベレー帽をかぶり、カメラをぶら下げた祖父は、ただ一人ケロっとしていました。
「おじいちゃんのばか!」と私は祖父にすがりつき、泣きじゃくりました。「ばか」なんて言ったのは、後にも先にもこの時だけです。
祖父は、兄に似た人のうしろ姿を追ううち、みんなとはぐれたそうです。地下鉄は危険ということだけは覚えており、地下から出たところを保護されたのでした。
私の中で、あの旅がいつまでも色褪せないのは、件の「迷子騒動」があったからだと思います。
祖父は、昨年の七夕に102歳で大往生しました。きっと今頃は、天国で写真でも撮っているのでしょう。もう迷子にならないでね、おじいちゃん。
(東京都・会社員・じゅっちゃん・36歳)