
グッドニュース新聞編集部
かさなり合う思い出
先日、一人娘をお嫁に出した友人の話です。結婚式の前日、20年ほど引き出しの中にしまったままだった一枚の絵を思い出しました。
それは小学生になったばかりの頃、父の日に娘さんが描いてくれた「パパ」と題した絵です。
茶色になった画用紙には、まだ髪の毛もフサフサで、一家の主として希望に燃えていた頃の自分が描かれています。
ただ、その頃から仕事が忙しくなり、なかなか家族との思い出を作れなかったことをそのとき、改めて悔やんだと言います。
思い出と言えば一度だけ行った、小学生3年生のときの運動会でした。親子で二人三脚競争に出場し、何回も転びながら娘さんと走った3分ほどのことが一番の思い出だったそうです。
その夜は、娘さんがまだ小さかった頃の思い出が浮かび出して眠れなかったとも言います。
結婚式の当日、式の最後に娘さんが一通の手紙を読んでくれました。そして、その内容は昨夜思い出していた二人三脚競争のことだったと言うのです。
二人で肩を抱き合い、必死にゴールを目指した3分間。その思い出は、娘さんの胸にもしっかり刻まれていたのですね。
この話を友人から聞いて思ったのですが、親子の気持ちというのは、いつも共有されているということです。
家族として同じ時間を過ごしていることは、何でもないことのように過ぎ去っていきます。けれど、そんな何でもない時間でも、家族と共に生きていることを忘れてはいけません。心は誰よりも伝わっているのです。
娘さんを無事送り出した友人ですが、これから奥さんと二人の時間をどう過ごすか、目を輝かせて語ってくれました。
(東京都・フリーライター・河西泰・54歳)