
グッドニュース新聞編集部
ホタルと子どもたち
山村の小さな学校の2年生担当として、都会からきたY子先生が着任された。
6月初旬――。そのY子先生が、担任を務めるクラスの子の日記帳を見ながら、首をかしげていた。
「先生どうしたん?」
「K子ちゃん……いつも日記のマスいっぱいに書いてきてくれるのに、昨日は二行しか書いてないんです」
「なんて書いてある?」
「『今年のホタルもやっぱりきれいだった!』って」
「おぉ! その二行、特別五重マルやってよ! 今夜、先生も赤尾川にホタルを観に行こう!」
Y子先生とは、夜に学校近くの赤尾川で待ち合わせしました。ホタルを見つけたので、「先生、あそこに三匹飛んでるよ」と教えたところ、「わぁー! きれい!」と手を叩いて大よろこびです。
帰り際、私は言いました。
「先生、明日からホタルのことで二行しか書けない子がつづくかもね。でも、その二行は彼らのこれからの人生にとって大切なことだから、マルをあげてね」
Y子先生も、ホタルを観てわかってくださったようである。
1年後、学校では環境教育という位置づけでホタルの人工飼育に取り組みはじめた。子どもたちは飼育とともに、学年に応じた研究をすることになった。ホタルが光を放つことはわかっていても、生態については未知の領域である。飼育しながら、研究や疑問について話し合い、一匹でも多くのホタルが飛翔できるよう、さまざまな工夫もした。
その結果、翌年の6月には、自然界では考えられない繁殖が実現し、学校のホタル川が光り輝いた。環境大臣賞をはじめ、たくさんの賞をいただき、子どもたちの「育ち」は高く評価された。あれから約25年、日記を二行しか書かなかったK子さんも、いまでは小学校の教師として教壇に立っている。
いなべ市立立田小学校は、平成28年度に閉校となったが、20数年間つづいたホタル飼育は、市の教育スローガン「感性を育む」のまさに実践であった。今年も、赤尾川のホタルは光り輝いている。
(三重県・自営業・田舎の爺さん・69歳)