
グッドニュース新聞編集部
君はポルシェがほしいと思うかい?
「やりたいことが見つからない」
アルバイトの学生たちが皆、口々にそう言う。むしろ、やりたいことがある学生の方が少ない。そんなとき、私はある教授の言葉を思い出す。
当時、大学生だった私は、彼らと同様にやりたいことが見つからなかった。
福祉系大学に進学し、教師を目指していたが、講義が退屈すぎて断念。空いた時間をアルバイトに費やし、それを学費にあてる日々が続いた。勉強よりもアルバイトをしている時間のほうが多く、そんな生活にウンザリしていた。
ある日、文学を専攻している教授と、進路について面談することになった。当たり障りのないことを伝え、その場を逃れようとしている私に教授は言った。
「君は本当は何がやりたいの?」
誰にも言っていない夢が脳裏に浮かんだ。本や映画が好きだった私は、物語を書いてみたいという密かな思いがあった。ただ、まわりにそんな人間はひとりもいない。友人はおろか、家族にさえ打ち明けたことがなかった。
「物語を書く仕事に就きたいです」
やけくそだった。文学に精通した教授に、それは無理だよと否定されれば、あきらめがついた。
「君はポルシェがほしいと思うかい?」
予想だにしていない答えが返ってきて、とっさに首を横に振る。
「これはお釈迦さまが言っていたのだけれど、人は手に届く欲望しか思い浮かばない。だから、君がなりたいという欲望があるのなら、それは手が届くんだよ」
その日から人生が変わった。物語について一から勉強し、私の書いた脚本で学生映画を撮った。大変なこともたくさんあったけれども、いまはプロの脚本家に指導を受けながら、賞に向けたプロットを考えている。あの言葉がなければ、いまの私はいないだろう。
「やりたいことが見つからない」のは、ひょっとしたら、だれかに話すことができないからなのかもしれない。
(千葉県・Y―18・24歳)