
グッドニュース新聞編集部
父のマスク
ある日の朝、同じ市内に住んでいる姉から、「マスクの作り方を教えてほしい」とメールが届きました。
雨が降ったり止んだりで、どこかに出掛ける予定もなく、気軽に「いいよ」と返事をしたら、ほどなく姉は甥っ子くんと一緒にやって来ました。
ああだこうだと、マスクの作り方を伝授していると、そこへ今度は、こちらも同じ市内に住む父と母が、「お昼を食べに行った帰りなんだ」と、アポなしでやって来ました。
なんだなんだ、と戸惑う私をよそに、気がきく主人は「お父さん、お酒飲みますか?」って、さっとお酒を出して、姉と母にはコーヒーを淹れてくれて、急に賑やかになりました。
そうだそうだと思い出して、姉がマスクにチクチク刺繍を再開したのを見て、「どれ、俺もやってみるか!」って、72歳の父が、お酒を飲んで軽く頬が赤らんでいるというのに、針に糸を通し始めました。「俺は家庭科5だったんだ」って、自慢する割には全然うまく通せていない。母は横でそれを見て笑うだけ。
5分くらいかけて、ようやく糸を通せたのはよかったけれど、マスクだというのに、ほっぺの位置に目の刺繍なんかをし始めたりするものだから、もうおかしくておかしくて。「肩こるな〜」なんて言いながらも、色もちゃっかり選んで、納得する刺繍が刺せた様子の父。「あら、もう4時よ」という母親の言葉を合図に、あれだけ騒いでいたのにみんな一斉に帰って行きました。
なんだったんだー⁉ 急に来て急に去って行ってしまった……。まるで嵐が来たかのよう。でもなんだか、ショートコントでも観せられたような思いで、ひたすらに笑っていました。大笑いして元気をたくさんもらえたし、少しはコロナ対策にもなったかな?
(千葉県印西市・チクチクサロンたまむしオーナー・荻野神奈・38歳)
