
グッドニュース新聞編集部
立ったまま居眠り……そのとき周囲は!?
通勤中のちょっぴり恥ずかしい体験をお話しします。
その日は、出先から直接の帰宅だったので、いつもより少し早い時間帯に電車に乗りました。吊り革につかまり、車内を見わたすと、混み具合いはそれほどでもないのですが、座席はほぼ埋まっています。
いくつか駅を越えた頃、隣で立っていた若い男性の異変に気づきました。その彼は、どうやら立ったまま寝てしまったようで、縦横にくねくね揺れたり、時折ガクッと膝を落としたりしはじめたのです。そのさまがあまりに激しく、同時に滑稽だったので、まわりの視線は彼一点へと集中しました。私もご多分にもれず、そのあぶなっかしい動きから目が離せません。倒れる前に支えなければという心配もありました。
倒れそうで倒れないその絶妙な動きに、やがてどこからともなくクスクスという笑い声が聞こえだしました。つられた他の乗客たちもみな、こみ上げる笑みが抑えられなくなった様子で、おたがいに目を見合わせて笑いはじめたのです。
懸命にこらえていた私ですが、目の前の女性と視線が合うと、もうガマンできません。奇妙な一体感に巻き込まれてしまい、抗うことなど不可能となって、思わず吹きだしたそのときです。後方から中国語とおぼしき言葉が発せられました。すると私と目が合った女性が、すかさずそれに中国語で応えました。別の男性がおもむろに立ちあがり、立ったまま熟睡中の彼に中国語で声をかけると、驚いて目覚めたその若者までもが照れくさそうに中国語で応えたのです。周囲のみんなが一斉に中国語で話しはじめ、私はようやく気づいたのです。
私以外の全員が旅行者とおぼしき身内どうしでした。つまり、彼を笑った部外者は私ひとりです。気まずくて下を向いていると、先ほど目の合った女性が私をポンポンと叩き、笑顔を向けてくれました。あなたも笑いを共有していいんだよ、とメッセージを送ってくれたのです。照れ笑いで返すと、それを見たほかの方々も笑顔になりました。
新型コロナウイルスが流行し、世の中がどうしても排外的になりがちな、そんな時期だからこそ、他国の人が困っているとき、手を差しのべられるやさしさを持ちたいと思いました。
(東京都・会社員・深方戸芦奈・47歳)