検索
  • グッドニュース新聞編集部

背負うのではなく、楽しむ人生

 会社の中で、総務部の雑用係のAさんが、ある日大きな傷を負って出社しました。当時、隣の課の課長だった私は「一体どうしたんだい?」とAさんに聞きました。

「自宅から駅まで自転車で通っているのですが、帰宅が遅くなってしまったので慌てて帰ろうとして自転車でこけてしまいました」と言います。

「そんなに慌てて帰らなければならないとは、何かあったのかい?」と聞くと、「実は、私の家内は17年間寝たっきりの状態で、早く帰ってやらなければお腹を空かして待っていると思って慌ててしまいました」と言います。

 私には、とてもできないことだなと思いました。

 平成バブルが終わった頃、会社も大規模な人員整理が行われ、多くの社員が会社を去りました。Aさんは、元工場で働く社員で、人員整理の対象になっていましたが、家庭の事情でどうしても残りたいという希望があり、総務部で雑用係をするようになりました。

 後日、そのAさんから、息子が結婚するという話がありました。Aさんは、「息子が結婚することになったので、別居するように何度も説得したんですが、どうしても同居すると言うんです。息子は、自分の母親だから自分も私と一緒に母親を介護すると。お嫁さんも、私にとってもお母さんだから一緒に苦労すると言ってくれました」

 この話を聞いたとき、Aさんは決して嫌々奥さんの介護をしているのではないな、と思いました。Aさんは、愛情を持って、奥さんとの生活を楽しんでいるのだろう。その父親の姿は、息子の心に響くものがあったんだと思います。だから、息子は同居を決断したのでしょう。私とAさんは、会社の中での地位はずいぶん違うけど、人間としての価値からすると、私はAさんにはとても及ばないなと思いました。

 Aさんが定年して、しばらくて、偶然Aさんに会いました。実にいい顔をしていました。「息子夫婦に子供ができて、今は孫と遊んでいます。家内も寝たきりですが、みんなで仲良くやっていますよ」という笑顔を見たとき、「オレは負けた」と心底思いました。


(株式会社ノリタケカンパニーリミテド元代表取締役会長・種村均・72歳)


#種村均

#創刊準備第1号

#家族

#夫婦

#親子

2回の閲覧0件のコメント

最新記事

すべて表示

最後の授業

新型コロナウイルスの影響で、みなさんの社会生活にも、甚大な影響が出ていることかと思います。 私は校長となってこれまで、卒業式を翌日に控えた六年生に向けて、体育館で最後の授業をしてきました。 「――みなさん、明日はいよいよ卒業式です。育ててくださった方々への感謝の気持ちを込めて、明日は素敵な卒業式にしましょうね。 さて、みなさんの将来の夢はなんでしょう? 実は、夢は大きければ大きいほど叶いやすい、と

  • Facebookの社会的なアイコン
  • LINE_APP
  • Twitterの社会のアイコン
logo_mini.jpg

©2020 合同会社グッドニュース新聞社