検索
  • グッドニュース新聞編集部

藤原岳の向こう側

 この頃、藤原岳を見ることが多くなった。みんな、おなじだ。見えないウイルスのせいで、うまくいかないことばかり。でも、下を向いて歩くのは止めた。顔を上げるよう意識すると、あらためて気づくことがある。

(藤原岳って、こんなにも勇壮で、美しかったのだ……)

 昔は、いまよりもっとよくながめたものだが、鈴鹿山脈の麓(ふもと)にある私たちの町からは見えるのが当たり前で、この光景の神秘性を見落しがちなのだろう。

 ながめる機会が増えると、山の反対側にいた頃の遠い記憶がよみがえってきた。

 私は、三重県から見て鈴鹿山脈の反対側、滋賀県の湖東エリア、愛知郡愛荘町の出身だ。幼いとき、いつか大きくなったら、この山を乗り越えて、向こう側の景色を見てみたい。そう胸を高鳴らせたものだ。山の向こうには、夢や希望や、キラキラした時間があると信じていた。

 きっとそれは、当時の自分が腎炎ネフローゼを患っていたせいだ。

 あの頃は、食事制限や、ベッドでの安静を強いられ、普通の暮らしが送れず、幼いながらにも現実はきびしかった。いま思えば、喉から手が出るほどほしかった「自由」、そのイメージを「山の向こう」に追い求めていたのだ。

 時を経て私は、幼い自分から見て山の向こう側の三重県にいる。昔、あこがれた向こう側のステージに、私はいま立っているのだ。当時望んでいたイメージとは少し違うかもしれないが、それでも自分の個性を仕事で生かすことを許していただけている。そんな、ありがたくてあたたかい環境にいる。

 また、乗り越えればいい、新型コロナ禍という山を。その山の向こう側には、まだだれもが経験したことのない、新しい時代が待っている。いまはそのステージに立つために、じっと耐えるときだ。

 やっぱり、藤原岳は美しい。

 あなたにもこの光景を共有したい。見上げた稜線が希望のアウトラインとなって、私たちを導いてくれる日が、すぐに来るのだから。


(三重県・The Inabes・40代2人組)


#TheInabes

#創刊第3号

#自然

#風景

#夢

#未来

#社会

#希望


5回の閲覧0件のコメント

最新記事

すべて表示