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  • グッドニュース新聞編集部

親切はためらうことなく

 とある地下鉄駅で見かけた出来事です。

 とても大きなスーツケースを抱えた若い女性が、ホームへの階段を下りはじめました。その階段はけっこう長く、しかもエスカレーターもエレベーターも近くにはありません。女性はスーツケースの底を階段にゴツゴツとぶつけながら、よろよろと下りていきます。

「危なっかしいな」と思ったとき、女性に続いて階段を下りてきた中年の男性が、見かねた様子で声をかけました。

「下まで持っていきましょうか?」

 その声に女性は振り向きましたが、しかし、あきらかに怪訝な顔。パッと見ではわからなかったのですが、どうやら彼女は東アジア系の外国人観光客で、日本語がわからないようなのです。

 一方の男性も意外だったのでしょう。少し戸惑った表情を浮かべました。しかし、彼はすぐにニッコリと微笑み、身ぶり手ぶりを交えながら、ゆっくりとした日本語で話しかけます。

「荷物を下まで持っていきますよ」

 すると、女性もうれしそうな笑顔になって、「サンキュー!」とスーツケースを男性に預けたのです。

 二人は、歩調を合わせるように並んで階段を下りていき、ホームの階まで下りきったところで、男性はすみやかにスーツケースを女性の手に戻しました。「お気をつけて」「サンキュー」女性は再び満面の笑みを浮かべ、それに少し照れたように、男性は足早に去っていきました。

 海外で自分の荷物を現地の人に預けることは危険だという認識が、私にはあります。それは、あながち間違いではないことでしょう。そして、日本を訪れる外国の方も同じように考えているに違いないと、なんとなく思っていました。しかし、この二人の姿を見て、その考えを私はあらためました。親切をためらう必要は、きっとないのです。断られたら引き下がる、それでいいのです。

 東京オリンピック・パラリンピック、もうすぐですね。


(神奈川県・シナリオライター・桜小路むつみ・54歳)


#桜小路むつみ

#創刊準備第4号

#親切

#気づき

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