- グッドニュース新聞編集部
鵜の大群襲来記念日
東京の郊外、日野市に越してきたばかりのことです。多摩川の支流沿いをジョギングしよ
うと土手にのぼると、頭上に影の存在を感じました。
仰ぎ見ると、黒い鳥の群れがⅤ字飛行していました。鵜(う)です。一群どころではありません。大袈裟でもなんでもなく、空を覆い尽くさんばかりの数でした。どこからともなく次から次へとやってきては、ところどころで巨大な塊となり、宙空で渦を巻きはじめたかと思いきや、一羽また一羽と、川面めがけて弾丸みたいに降りそそぐのです。
鵜はそのまま潜水し、姿を消しますが、すぐさま別の鵜が水面から浮上します。似たような場面が、見わたすかぎり至るところで繰り返され、同時並行的に、新たなⅤ字編隊がひっきりなしに飛来し、わだかまり、猛然と急降下してきます。
呆然としつつ5キロほど走るうちに、支流はやがて多摩川と合流したのですが、目に映るすべてが鵜まみれでした。河原も、中州も、堤防も、どこもかしこもです。だだっ広い河川敷をまたぐ送電線にまで隙間なく黒い列をなし、雀の止まる余地さえありません。
魚という魚は、あの黄色いクチバシで根こそぎ丸飲みにされたはずです。釣り人たちはさぞや歯噛みしたことでしょう。
あんな光景を見たのは、後にも先にも一度きりですが、心のうちに郷土愛が芽生えた記念日となりました。狸やカワセミはよく見かけますが、そのたび、自然のまだ色濃いこの町に越してきてよかったと、しみじみ思う自分がいます。そして時折、空を見あげて探すのです、あの畏怖すべき旅人たちの姿を。
(東京都・会社員・龍田揚彦・48歳)


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