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  • グッドニュース新聞編集部

編集後記

 東員町は、三重県北部に位置する、人口2万6000足らずの小さな町。平成の大合併の折にも、隣接する市町と合併することなく、町として存続した小さなこの町に、天下の奇祭と呼ばれる、「大社祭(おやしろまつり)」という神事がある。その祭の二大行事は、「流鏑馬(やぶさめ)」と「上げ馬」。

 奇祭とは、上げ馬神事のことである。「乗り子」と呼ばれる16〜17才の若者が、猪那部(いなべ)神社の境内につづく坂道を馬にまたがり、7・80メートルの助走のあとに駆けあがる。かなり急な土の坂道の最後に、8尺の「壁」、というか「崖」があり、ここを人馬一体となって跳び越える。上がれたり上がれなかったりである。上がれなければ、馬もろとも真っ逆さまに転げ落ちる、命がけの祭りである。

 町内の各地区(現在は4地区)から数人ずつ選ばれた乗り子たちは、祭りの1週間ほど前から親もとを離れ、男子だけの青年団仲間のまかないで寝食をともにし、神事に挑む。もともとはどれだけの乗り子が崖を上がれたかによって、その年の豊凶作を占ったのだという。色とりどりに飾られた馬と乗り子はとても美しく、春の訪れを告げる大社祭は、毎年4月の第1週末に催され、約800年もの歴史を誇る。かつて私はこの祭りを『天高く馬跳ぶ春』というミュージカルに描かせていただいた。

 今年、この神事が新型コロナウイルスの影響で中止になった。東員町を象徴するこの祭りが、今年は行われない。3月の終わりにそう聞いて、私は矢も楯もたまらず猪那部神社に行ってみた。若いお父さんと園児くらいの娘さんが手をつないで、坂の上の境内からじっと坂の下を見つめていた。尋ねると、若いお父さんはかつてこの坂を駆けあがった乗り子だった。「ねぇ、なんでお祭りないの?」と聞く娘に、困りながら彼は、「今年はお馬さんお休み」と、坂の下を見つめたまま答えていた。

 次に現れた年配の方は、「戦時中以来の中止や、しかたないな。そやけど桜は、ほれ、ちゃんと咲いとる。祭りはまた来年やな」と答えてくれた。

 グッドニュースはこの小さな町、東員から全国に向けて発信しています。800年の歴史を差しおいても守りたいのは、人々の健康と笑顔。東員町もがんばっています。みなさまの全国からの素敵なニュースをお待ちしています。


(本紙編集長・野村幸廣・54歳)


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