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  • グッドニュース新聞編集部

 講演を終えた翌朝――。昨夜遅くまで一緒に飲んでいた知人が、私をわざわざ駅まで送るため、朝8時前に迎えに来てくれた。作業着姿の彼からは、もう花の香りがいっぱいしていた。花の出荷のため、朝早くから花摘み作業をしていたそうだ。

 知人は、鹿児島で菊を育てて出荷するのを生業としている。そんな彼が、車のなかで東北の大震災にまつわる出来事を話してくれた。

 震災直後、彼はある東北の花屋さんから、「菊を送ることのできる業者はいないか」との相談を受けたのだという。

 突然の津波によって多くの命が奪われた。幸運にも発見されたご遺体は、棺に収められることになるのだが、すべてが波にさらわれてしまい、ライフラインも寸断された状態では、花の手配すらままならない。大切な家族を見送るときに、花の一輪もたむけることができない……そんな惨状だったらしい。

 彼はすぐに輸送を頼める業者を探した。なかなか見つからなかったが、ただ一社、佐川急便から「遺体安置所までなら届けます」という内容のFAXが届いた。

 彼の育てた菊は、どうにか花を待つご遺族のもとに届けられ、一輪一輪、棺の上に供えられたそうだ。たった一輪――だけどそのたった一輪の菊に、どれほど多くの方の心が救われたか。彼は言った、「花でお腹を満たすことはできないけれど、心は満たすことができました」と。

 私は初めて「花」という字の意味を深く感じさせられた。「艹(くさかんむり)」に「化(ける)」と書く花は、育てる人、贈る人によって、途方もなく変化し、心を満たしてくれるのだということを――。

 朝からあたたかな話に満たされた私は、彼に見送られながら駅の改札へと向かった。花の香りだけがどこまでも消えずについてきた。 


(滋賀県・講演家、作家・フカキヨ・44歳)


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#仕事

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